02頁:ビオラ様とバレンタイン

 

 私ことスイレンは、フラワーガーデンの平和を守るために害虫たちと戦う少女、花騎士(フラワーナイト)の一人。
 本来はバナナオーシャンの王宮に仕えるメイドなのですが、今はある騎士団でお世話になっています。
 そんな私の日常を、『日記』という名目で、気が向いた順につづってみることにしました。
 これは『騎士』という輝かしい称号を与えられた少女たちが背負うことになる、苛烈で熾烈、残酷で過酷な物語。
 私たち花騎士たちの……戦いの、記録です。


 特にやることも無いので何かいい暇つぶしはないか、と騎士団寮の廊下を適当に散歩していた時。
「あ、スイレンさーん」
 突然、私を呼ぶ声が聴こえてきました。
 声が聴こえた方に目をやると、そこには小柄で可愛らしい、一人の少女が。
 私と同じくこの騎士団に所属する花騎士、ビオラ様です。
「いかがなさいました? ビオラ様」
 返事をしながら、ビオラ様の目線に合うよう少し腰を落とします。
「実はちょっと、お願いしたいことがあるんです」
 手を合わせておねがい、って感じのポーズをしながら、ビオラ様は上目使い気味に話しかけてきます。
「いいですよ、なんでも言ってくださいな」
 ん、今なんか私危ないことを言ってしまったような。
 そんな私の考えはもちろんスルーで、ビオラ様は話を進めます。
「えっと……チョコレートの作り方、教えてほしいんです」
「チョコレートですか? ……なるほど、明日はバレンタインデーですものね」
「はい。その、団長さんに送るチョコレートを作りたくって。ハボタンさんに聞いたら、スイレンさんが得意だよ、って言ってたので」
 なぜでしょう、どこか素直に喜べない気がするのは。
 ……気にしないでおきましょうか、せっかく私を頼ってきてくれたのですしね。
 それにちょうどいい暇つぶしにもなりそうですから♪
「お任せください、ビオラ様。この私が、全力を持って協力いたしましょう」
 私は胸を軽く叩きながら、ビオラ様に答えます。快諾です。
「本当ですか? ありがとうございます、ふにー♪」
 そんな私に、ビオラ様は満面の笑顔を向けてくれるのでした。


「それでビオラ様、団長様にはどのようなチョコレートを?」
 騎士団寮備え付けのキッチンに向かって歩きながら、私はビオラ様に訊ねます。
「えーっと……前にスミレお姉ちゃんと一緒に食べたものなんですが……外はかりっとした感じのチョコレートで、中にはジャムが入ってて……それがおいしかったので、団長さんにも食べさせてあげたいなー、って」
 ビオラ様は人差し指を口に当てて、思い出すように天を見ながら歩いています。
 つまづいたら危ないので、私はさりげなく空いた方の手を握りながら返事をします。
「外はカリっとしたチョコレート……ボンボンショコラでしょうか」
「ぼんぼん……ふにー、スミレお姉ちゃんもそんな名前で呼んでたと思います!」
 当たりだったようです。思案顔だったビオラ様がまた笑顔になりました。ころころと表情が変わるさまは、なかなかに見ていて楽しいものです。
「では、ボンボンショコラを一緒に作りましょうか。レシピもバッチリですよ、昔作ったことがありますから」
「わー、スイレンさん、すごいですー! ふにー!」
 満面の笑顔と身体全体で喜びを表してくれるビオラ様を見ていると、こちらも引き受けたかいがある、というものです。
「お任せください。さて、中には何を入れますか?」
「ふにー? ジャム以外でもいいんですか?」
 何気なく訊ねた私に対して、不思議そうに聞き返してくるビオラ様。
「ええ。ボンボンショコラならむしろ、お酒が入ってるウイスキーボンボンとかの方が有名だと思いますよ」
「お酒ですか? ふにー、おとなの味です……」
 ちょっとだけ興味がありそうな雰囲気……しかし、ビオラ様にお酒はちょっと早いかもしれませんね。
「そうだビオラ様。私の部屋に、バナナオーシャンの王宮からくすねてきたココナッツがあるんですよ。それを使って、ココナッツミルク入りのボンボンショコラを作りませんか?」
 というわけで、別の案を挙げておくことにしました。
 ビオラ様はふにー、と一瞬思案顔になりましたが、
「ココナッツミルク……美味しそうです! スイレンさん、お願いしても良いですか?」
 と、すぐに笑顔でそう答えてくれます。
「もちろんです。では取りに行ってくるので、キッチンで待っていてください」
「わかりました、ふにー」
 ビオラ様のお返事を聞いてから、私は少し早足で自室へと向かうのでした。
 ……ところで。『王宮からくすねてきた』をあっさりとスルーするあたり、ビオラ様、なかなかに大物なのかもしれません。


「お待たせしました、ビオラ様」
 部屋から4つほどココナッツを持って、キッチンに向かいます。
「スイレンさん、おかえりなさいですー」
 ビオラ様は戻ってきた私を、無邪気な笑顔で迎えてくれます。
 姿もビオラの花柄エプロンに身に包んでいて、準備万端、気合充分といった様子です。
「では始めましょうか。まずココナッツミルクを作るとしましょう」
「はい! ……えっと、ココナッツミルクって、どうやって作るんですか?」
「ココナッツミルクはですね、ココナッツの胚乳の部分を濾して、液状にして作るんです」
「……はいにゅー?」
 ビオラ様は、オウム返しに私の台詞を繰り返します。
 平坦な発音から判断するに、意味もわかってなさそうです。
「そうですね……もうちょっと噛み砕いて言うと、中身をすり下ろして、水でといて作る、という感じですかね。まずは中身を取り出すために、ココナッツを割りましょう」
「ふにー……とにかく、これを割ればいいんですよね? 任せてください、ふにー」
 そのふにー、という掛け声と共に、ビオラ様はテーブルを一度、彼女の武器であるミニハンマーで叩きました。
 すると。
「ふにー」「ふにー?」「ふにー!」「ふに」「ふにーー」
 テーブルの上には、5体のちっちゃなビオラ様が。チビオラ隊を召喚したようです。
「支えててください、ふにー」
「ふにー」「ふにー?」「ふにー!」「ふに」「ふにーー」
 ビオラ様の声に、チビオラたちは返事をしながらココナッツを4方向に分かれて固定します。余った1体は比較的のんびりした性格らしく、その場でぺたんと座り込んで様子を見ていました。
「じゃあ、行きますよー! そーれっ!」
 掛け声と共に、ビオラ様は勢いよくハンマーを振り下ろします。
 小型の害虫なら一撃で倒せるそのハンマー。
 もちろんココナッツを割ることなど造作もないのは間違いないのですが。
「ふ、ふにー?!」
 ぱりん、と。ハンマーの一撃でココナッツは割れました。
 しかし威力が強すぎたのか、ココナッツは正確に言えば砕けてしまい、その破片や中に詰まっていたココナッツの果汁があたりに飛び散ることになってしまいました。
 私は慌てて、その衝撃で転んでしまい尻餅をついたビオラ様に駆け寄ります。
「ビオラ様、大丈夫ですか? お怪我は?!」
 まずはさっと全身を見回して、破片で怪我などされていないかを確認します。
 お顔にはバナナオーシャンの特産品である、濃厚で白濁としたココナッツの汁(暗喩ではない)がべっとりと掛かってしまっているものの、見た感じではどこか切ったりはしてなさそうです。
「ふにー、失敗しちゃいました……べとべとして、気持ち悪いです……」
 顔についた白濁液を手でつまんで弄りながら言うビオラ様。周りにいたチビオラたちも、ココナッツの果汁でべっとりとしています。
「とにかく、一度みんなでお風呂に行きましょうか」
「はい……」
 そんなわけで、私はビオラ様とチビオラ隊を連れて、寮の大浴場へと向かうのでした。

 
 
「どこかかゆいところはございませんかー?」
 ビオラ様を風呂椅子に座らせて頭を洗いながら、私は明るく訊ねます。
 もちろん、改めてビオラ様の身体を上から観察しながら。
 もともとエプロンなども着けていたので身体に傷がついている可能性は低いのですが、念のためにと私はビオラ様の身体に目をやります。
 まだまだ未発達な背の丈そのままの、『つるぺた』と表現するのが一番手っ取り早そうな平坦なボディライン。
 しかしながら、胸やお尻はその存在を密かに主張するかのように膨らみが見えて、確かに女の子である、ということを認識させられます……もとい。
 とりあえず頭上から観察する限りでは、割れたココナッツの破片でどこかを切ったりはしていないようでした。
 しかし上から見ただけではわからない部分もありますし、転んだ時にお尻を打っているはずなので、そちらも後で確認しておかなければ……などと内心思いながら。
 それらをビオラ様には悟られないようなるべく明るい雰囲気を作りながら、私はビオラ様の頭をわしゃわしゃと洗い続けます。
「ふにー、きもちいいですー」
 かなりリラックスした声色で、ビオラ様は答えてくれます。
 視界の先では、ふにーふにー、と鳴き声(?)をあげながら、チビオラ隊が一列に並んで背中を洗いあっていました。
「では、一度流しますから、目を閉じていてくださいね」
「ふにー」
 返事を聞いてから、シャワーと空いた方の手で頭についた泡を洗い流していきます。
「それじゃあ次は、身体も洗ってさしあげますね」
 手を石鹸で泡立てて、まずは背中から。
 そしてそのまま、腕を洗い、次は胴体を洗うために一度正面に回ります。
 その際に、今度は正面からじっくりとビオラ様の身体を観察します。
 ハンマーを振り回しながら戦っているとはいえ、まだまだ年齢相応の華奢さが目立つ肩。
 主張の弱い、しかし微かに膨らみが感じられる胸と、ぷにぷにのおなか。
 目で見て、そして直接手で触っていきながら、その瑞々しく綺麗な幼肌に余計な傷がついていないか、入念にチェックしていきます。
 ふにゅ。
「ふに」
 ふにゅふにゅ。
「ふに、ふにー……」
 ふにゅふにゅふにゅ。
「ふに、ふに……ふにー! もースイレンさん、私のおっぱい触りすぎですー!」
 怒られてしまいました。私はただ洗っているだけのつもりだったはずなのですが。
「……でも、これで私も、おっぱいおおきくなるかもしれません」
 とか思っていたらなんか変なことを呟き始めたので、私は「ビオラ様?」と聞き返します。
「あ、えっと……ハボタンさんが、おっぱいは、その……揉んでもらったら、おおきくなるって……」
 さすがにちょっと恥ずかしかったのか、ビオラ様は顔を真っ赤にしながらそう言いました。
 ハボタンさん、こんな小さな子どもになんてことを教えているんですか……そんなことを考えている間に、ビオラ様が言葉を続けます。
「スイレンさんも、おっぱいおおきいです……やっぱりその……誰かに、揉んでもらったんですか?」
「…………ッ」
 何かを吹き出しそうになるのをなんとか堪えました。ハボタンさん……恨みますよ?
 さて、なんと説明したものでしょう。少し考えてから。
「……次はわき腹を失礼しますね」
 そう言って、私はビオラ様の横っ腹に両手を伸ばします。
「わ、ひゃうッ!? スイレンさん、くすぐったいですよー」
 本当にくすぐったかったらしく、ビオラ様は笑いながら反応しています。
 ……なんとかごまかしきれたようです。
「じゃあ次は、足とかを洗いますねー。ビオラ様、一度立ち上がっていただけますか?」
 そのまま押し切るべく、私はそうビオラ様を促します。
「わかりました」
 私の声に、ビオラ様は素直に従って立ち上がってくれます。
 このタイミングで、さきほど打っていたはずのお尻も確認。
 ちょっとだけ赤くなっている気もしますが、とりあえず大事にはなっていなさそうです。
 安心した私はそのぷにぷにすべすべした感触を一通り楽しんでから、次はビオラ様のカモシカのようなおみ足に狙いを定めるのでした。


 そして、そんなハプニングに見舞われながらも。
「……ようやく完成ですね、ビオラ様」
 ついに。ビオラ様の、ご主人様へのチョコレート――バナナオーシャンの特産品であるココナッツから取れた、濃厚なココナッツミルクを贅沢に練りこんだ、ボンボンショコラが出来上がりました。
「はい、スイレンさん! ありがとうございました!」
 ビオラ様は一度私に笑顔を見せてから、礼儀正しくぺこりとお辞儀をします。
「どういたしまして。あとは明日、ご主人様に渡すだけです。頑張ってくださいね?」
「はい! 団長さん、喜んでくれたら嬉しいですー、ふにー!」
 ビオラ様は、本当にありがとうございました、と最後にもう一度お礼を仰ってから。
 私に背を向けて、自室へと戻っていきました。
 ご主人様、喜んでくださるといいですね。
 そんな想いを込めながら、私はその背中を見送って。
 見送っていたのですが。
 向こうへと走っていたビオラ様は突然、その場でくるんとターンをしてから。こちらへと戻ってこられました。
 そして。
「スイレンさんにも一つ、あげちゃいます。あーんしてください、ふにー♪」
 そう言いながら、ビオラ様はさきほど作ったチョコレートの一つを、私の口に目掛けて差し出してきます。
 おやおや。
 どうやら私は、一足先に可愛らしいバレンタインプレゼントを頂いてしまったようです。


――Fin.

  • 最終更新:2017-02-13 23:31:49

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード