03頁:アブラナ様、イチゴ様との夜襲作戦!


 私ことスイレンは、フラワーガーデンの平和を守るために害虫たちと戦う少女、花騎士(フラワーナイト)の一人。
 本来はバナナオーシャンの王宮に仕えるメイドなのですが、今はある騎士団でお世話になっています。
 そんな私の日常を、『日記』という名目で、気が向いた順でつづってみることにしました。
 これは『騎士』という輝かしい称号を与えられた少女たちが背負うことになる、苛烈で熾烈な物語。
 私たち花騎士の……戦いの、記録です。


 とある銭湯、早朝。
「ふぅ……ようやく一息ついた、って感じね」
 湯船に身をゆだねて、リラックスしきった声でアブラナ様が仰いました。
「うん、大変だったねぇ」
 一足先に身体を洗い終えて、風呂を堪能しているアブラナ様の言葉に、すぐ近くの洗い場からイチゴ様が答えます。
 ちなみに私は今、イチゴ様の御髪を洗ってあげているところです。
 本人同様にふわふわで柔らかい御髪の感触を楽しみながら、私は今こうして3人で朝風呂を満喫するに至った経緯を思い返すのでした。


 昨日の早朝。
 私、アブラナ様、イチゴ様の3人に、出撃命令が出ました。
 内容は、ブロッサムヒルとリリィウッドの国境にあたる森にて発見が報告されている害虫を確認し、可能ならばこれを討伐してくる、というものです。
 命令を聞いた私たちはすぐさま現地へと移動し、件の害虫の目撃者に詳細を確認しました。
 なんでも発見者がそこそこ観察していたらしく、昼間は活発に動いて夜は眠っているという妙に規則正しい生活を送る害虫である、との情報が得られました。
 その話を元に立てた作戦は――夜襲。
 夜を待ち、闇に紛れて害虫に強襲を仕掛けました。
 作戦は無事成功し、日が昇る頃には3人とも大した怪我もないまま討伐は完了。
 今はそこからもっとも近い町の銭湯で、悠々と朝風呂を満喫しているところです。
「それにしても。昨晩は大騒ぎでしたね……」
 イチゴ様の瑞々しい肌触りを堪能しながら……もといお身体に傷を付けないよう丁寧に洗いながら、私の回想はさらに昨晩のことまで遡ります。


 鬱葱とした夜の森の中を、私たちは月明かりだけを頼りにして進んでいきます。
「うぅ~~……真っ暗で、ちょっと怖いですぅ」
 3人で縦一列になって進んでいると、先頭のイチゴ様が怯えたようにそう仰いました。
 現在の並びは、前からイチゴ様、私、アブラナ様の順番になっています。
 視界の悪い森の中で害虫を見つけ次第すぐに攻撃が行えるよう、3人の中で最も攻撃範囲の広いイチゴ様を前に置いている、という陣形なのですが……
「イチゴ、大丈夫? ダメなら代わるわよ?」
 人によってはちょっと突き放すかのような、厳しくも聞こえる言い回しで、アブラナ様は仰いました。
 ですが、声のトーンからはどこか優しいものを感じられます。
「いいの? ありがとう、アブラナちゃん!」
 つまり、それは純粋にイチゴ様を想っての言葉だったのでしょう、イチゴ様はアブラナ様の提案を素直に聞き入れます。
 そのやり取りを聞いてて、イチゴ様とアブラナ様のお二方の仲の良さ、というのを改めて認識させられた気がしました。
 そんなわけで、少し相談した上で並び順が変更されます。
 前からアブラナ様、イチゴ様、私の順。
 アブラナ様を前に出したことで理想の作戦からは少し外れることになってしまいましたが、やむなしと言ったところでしょう。
 そこからまた月明かりだけを頼りに、害虫の縄張りらしき座標へと3人で足を進めます。
「………………」
 害虫に気付かれないようにするため、無駄なお喋りは避けて歩き続けます。
 ……それを維持し続けることが理想ではあったのですが。女3つの『姦しい』という字が示すとおり、沈黙も長くは続きませんでした。
「……確かに、夜の森って不気味ね」
 ぼそっ、と先頭のアブラナ様がそんな呟きを漏らします。
 その声には、どこか不安そうな雰囲気が混じっています。
 強大な害虫たちに怯まず挑む花騎士たちといえど、やはり根は女の子。
 暗闇の中で先頭を歩く、というのは害虫と対峙するものとは違う恐怖心があるようです。
「……ごめんね、アブラナちゃん。やっぱり、アブラナちゃんでも怖いよね……?」
 その様子を見たイチゴ様が、しゅん、とした雰囲気でアブラナ様にそう話しかけます。
 安易に代わってもらった罪悪感からか、イチゴ様は気遣うような声をしていました。
「え? ……だ、大丈夫よ。怖くなんかないわ」
 そんなイチゴ様に対して、自ら交代を申し出た手前今更弱気なことを言ったのは失敗だと思ったらしく、アブラナ様は気丈に弱音を撤回しました。
 しかし、そのとき。
 がさっ。「きゃっ」「ひぃっ」「!」
 近くの草むらから、物音がしました。
 音が聞こえた方にしばらく目を向けていると、ぴょこん、と一匹のウサギが辺りを探るように出てきます。
 どうやら物音の正体はそれだったようです。
 ウサギは私たちの姿を認めると、そのまま回れ右して去っていきました。
「……アブラナちゃん、本当に大丈夫?」
 そして、そのまま当然の流れとして。
 自分と同タイミングで悲鳴をあげていたアブラナ様に、イチゴ様は改めて不安そうな瞳を向けながら訊ねます。
「アブラナ様、先頭、代わりましょうか……?」
 さすがの私もそろそろ口を挟んでおこうかと思い、そう話しかけます。
「代わってもらった方がいいよ、アブラナちゃん」
 私の提案に、イチゴ様も便乗してきました。
 すると。
「はぁ? 大丈夫だって言ってるでしょ?! 怖くなんてないんだから!」
 心配しすぎたのか、アブラナ様は声を荒げてそう返すと肩を怒らせながらずんずんと進んでいきました。
 その足取りは勇ましく、頼もしいもので。
 ……これ、どっちかというとイチゴ様の言葉がアブラナ様をいきり立たせる決定打だった気がするのですが。
 天然なのか計算なのか、それとも長年(?)の付き合いからきたやり取りなのでしょうか。
 まあ、それはともかく。
 そんなアブラナ様を先頭に進んだ私たちは、その勢いのままに害虫を無事討伐できたのでした。


「って、回想する場面おかしくない?!」
「おや、アブラナ様。人の回想にツッコミを入れてくるのはちょっとメタネタすぎると思いませんか?」
「アンタその回想、銭湯にいるおばちゃんたちにぺらぺらと語ってるでしょうが!」
 ちなみに周りで聞いてくださっていたおば様方は、すでに『花騎士様たちも、可愛らしいところあるのねぇ』なんて和やかにお喋りを始めています。
 ………………。
「ではイチゴ様、流しますよー♪」
 というわけで、私もお湯と一緒にさらっと流すことにしました。
「はーい、おねがいしますぅ」
 イチゴ様のお返事を聞いてから、私は桶を使って丁寧にお湯を掛けていきます。
 イチゴ様の肌は瑞々しく、お湯を弾いていくつもの水玉が浮いていました。
 水玉といえば、今日のイチゴ様の下着も……いえ、なんでもありません。
「ではイチゴ様、私たちも湯船に参りましょうか」
 一通り泡を流し終えてから、イチゴ様を湯船へとエスコートします。
「あ、はい! アブラナちゃん、私もそっちにいくね♪」
 イチゴ様は素直に笑って、私に導かれるまま湯船の中へと入っていきます。
 そして、イチゴ様と2人でじっくりと、肩まで浸かって一息。
「ふぅ……やはり、お風呂はいいですね」
 思わずため息が漏れました。
 お湯の温もりが、戦場で荒んだ私たちの心を癒してくれます。
「はい、気持ち良いですぅ……」
 隣のイチゴ様も、朗らかな声で応えてくれました。
「私はそろそろ熱くなってきたわ……よ、っと」
 イチゴ様を挟んで反対側にいたアブラナ様は、湯船のフチに腰掛けて、足だけが浸かっている状態になります。ちなみに胸はちゃんとタオルで隠していました。
「まぁ、でも。今回は楽勝だったわね。後は帰って団長に報告するだけ、っと」
 そのまま壁にもたれかかりながら、アブラナ様は言葉を続けます。
「油断は禁物ですよ、アブラナ様。帰るまでが任務なのですから」
「遠足か!」
 最後まで気を抜かないよう言ったつもりだったのですが、なぜか鋭く突っ込まれてしまいました。
 そんな私たちのやり取りを聞きながら、イチゴ様はくすくすと楽しそうに笑っています。
「スイレンさんの言うとおりですよ、アブラナちゃん。確かに団長さんが言ってた害虫は倒せたけど、帰り道でまた戦闘になるかもしれないし」
「心配しすぎよ。帰り道で出てくるような害虫なんか、私たちの敵じゃないわ」
 ちょっと心配症なところがあるイチゴ様と、強気なアブラナ様。
 ウマが合わなさそうにも感じられる2人ですが、むしろ互いが互いの支えとなっている良いコンビだったりするのです。
 そんな光景は、昨日の任務の最中にもいろいろ垣間見えていました。
 たとえば、どんどん突き進もうとするアブラナ様を、イチゴ様が巧みに制していたり。
 あるいは、思いついた作戦の決行を悩むイチゴ様の背中を、アブラナ様がそっと押していたり。
 正直、今回私要らなかったのでは? とちょっと思わなくもないくらいでした。
 ……それはそれで、ちょっと寂しい気がしました。というわけで。
「ぎゅー」
 言いながら、そのままアブラナ様と談笑しているイチゴ様に抱きついてみます。
「わ、す、スイレンさん?」
 イチゴ様はちょっとだけ慌てた様子の反応。
「お身体を洗っているときから思っていましたけど、イチゴ様は本当に愛くるしいですね♪」
 言いながら、優しくイチゴ様のすべすべぷにぷになお肌を優しく撫でていきます。
「え、えへへ、くすぐったいですよぅ」
 イチゴ様は言葉通りくすぐったそうに、身体を捩りながら笑うのをこらえているようでした。
 とりあえず、お約束として。
 ふにゅっ。
「ひゃわっ!? もうスイレンさん、おっぱい触らないでくださいよぅ」
 顔を真っ赤にしながらも、イチゴ様の抵抗はゆるやかなもので、どこか楽しんでいるような雰囲気すら感じられます。
 ならば、という感じでさらにお腹から下のほうにまで手を……
「って、スイレン! いい加減にしなさい!」
 伸ばそうとした段階で、一方のアブラナ様がそろそろ見かねたのか、滑り込むよう湯船に入り込んでイチゴ様を私から奪還しようと割って入ってきました。
「おや、アブラナ様。もしかして、ちょっと寂しくなりました?」
 そんなアブラナ様に、私はちょっと挑発するように言い放ちます。
「そ、そんなわけないでしょ?! わ、私はただ……」
「「『ただ』?」」
 言われて微妙に狼狽しているアブラナ様の言葉を、私とイチゴ様はオウム返しに聞き返します。
「い、イチゴが嫌そうに……してるような……してないような……」
 あっちを向いたり、こっちを向いたり。
 アブラナ様は少し歯切れの悪い様子。
 ちなみに当のイチゴ様は元々アブラナ様が仰るほど気にしていなかったのか、一瞬小さく小首を傾げてから。
 急に、ぱっと笑顔になって。
「えへへ、アブラナちゃん!」
 ふわっと私を振り切り、そのままアブラナ様に抱きつきました。
「ち、ちょっとイチゴ?!」
 慌てた様子で、アブラナ様は親友の名を呼びます。
 しかし、イチゴ様は優しい笑みを浮かべたまま。
「大丈夫だよ、アブラナちゃん」
 ただ、ひと言だけアブラナ様に囁きかけました。
 長年の付き合いからなのか、アブラナ様はそれで納得したらしく。
 ふ、と優しく微笑んでいました。
「えいっ♪」
 そんなお2人を見つめていた私は、今度はイチゴ様ごとアブラナ様を抱きしめます。
「はわっ?!」「?! ち、ちょっとスイレン?!」
 イチゴ様とアブラナ様が、それぞれ驚きの声を挙げていますが、気にせずに。
「いいですね、お2人は。互いを信頼しあっている、そんな感じがします」
 自分でもちょっと驚くくらいの優しい声で、2人にそう語り掛けました。
「害虫たちと戦っていく上で。仲間を信頼するということは、何よりも大事なことだと私は思っています。だから貴女たちにはずっと、今のままの2人でいて欲しいって私は思うんです……」
「……スイレン」
 私がある程度話し終えたところを見計らって、アブラナ様が口を開きます。
「真面目な話をしながら、私とイチゴの胸を触るのはやめなさい」
 ふにゅふにゅ。
「……イチゴ様の方が、僅差で大きいですね」
「うるさい!」
 アブラナ様の怒声が、浴場に響きました。
 まだまだ、害虫たちとの戦いは終わる気配が見えません。
 それでも。たまにはこうやって和やかな時間を過ごすのも大事なことだと、お二方の柔肌を堪能しながら私は思ったのでした。


――Fin.


最後まで読んでいただきありがとうございます。
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  • test --- 丸いの (2017/04/18 21:08:50)

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  • 最終更新:2017-04-17 01:50:32

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