06頁:チーくん様とお喋り


 私ことスイレンは、フラワーガーデンの平和を守るために害虫たちと戦う少女、花騎士(フラワーナイト)の一人。
 本来はバナナオーシャンの王宮に仕えるメイドなのですが、今はある騎士団でお世話になっています。
 そんな私の日常を、『日記』という名目で、気が向いた順でつづってみることにしました。
 これは『騎士』という輝かしい称号を与えられた少女たちが背負うことになる、苛烈で熾烈な物語。
 私たち花騎士の……戦いの、記録です。


 現在地、騎士団寮廊下。
 私の視線の先には、一匹の害虫がいました。
 焦りを抑えるよう深呼吸をしながら、私はすぐに武器を手に構えます。
 それは夢にも思っていなかった光景。
 周囲でも最強クラスと謳われた我が騎士団の寮内に、まさか害虫の侵入を許す日が来るとは……。
 いったいどこまで、そしてどれくらいの数の敵に侵攻されているのか。
 今は少しでも情報を集めないと……考えながら、その害虫がいる方向に目を向け。
 そして、その『相手』を確認してから。
 静かに、武器を収めました。
 そのまま臨戦態勢も解き、メイドとして恥ずかしくないよう、優雅かつ華麗にその『個体』に近づいていきます。
 全高は私の膝くらい。
 改めて見ると一切の殺気も敵意も無く、むしろどこかのんびりした雰囲気すらかもし出している存在。
 首には黄色いリボンが巻かれた、一匹のチビカーマ。
「あなたがチーくん様、ですね?」
 一匹で悠々と廊下を歩くそのチビカーマに、私は視線をなるべく合わせられるよう腰を落としてから、そう訊ねました。
 返ってきたのは「ギィ」、という鳴き声。
 その鳴き声が肯定であることはすぐに理解できました。なにせ私はメイドですから。んふっ♪



 今私たちの騎士団寮には、別の騎士団から周辺の調査にやってきた二人の花騎士、レシュノルティア様とハナモモ様が滞在されています。
 そしてお二方が連れている『チーくん』と呼ばれているチビカーマもまた彼女たちの仲間であるということで、ご主人様からは等しく客として歓迎するように、と通達も出ています。
 なんでも人に対して敵意を持たず、むしろ友好的ですらあるので保護観察対象に指定されているとのこと。
 そして今はお二方と行動を共にしているのだそうですが……辺りにお二人の姿は見当たらず。
 おそらくはぐれてしまって、こうして寮内をさ迷い歩いていたのでしょう。
「さすがにお一人……? で歩かれるのは危ないと思うのですよ」
 とりあえずチーくん様に語りかけていきます。
 実際このまま寮内をお一匹で歩かれては、勘違いした他の花騎士たちに攻撃されかねません。
「ギィ?」
 そうなの? とでも言いたげに首をかしげながら、チーくん様は鳴き声をあげます。
「ええ。というわけで、しばらくは私と一緒にいましょうか」
「ギィ」
 お願いします、という感じの鳴き声。
 了承を得たので、私はチーくん様を抱き上げます。
「では私はこのまま台所へ向かいますので、お供してくださいね?」
「ギィ♪」
 返事を聞いてから、私は歩き始めました。
 ちなみに。
 チーくん様、思ったより抱き心地いいです。
 殻はちょっと固いですが、身体はほんのり暖かいです。
「さて、チーくん様。今からご主人様のお昼を用意しようと思うのですが、何かお勧めのメニューはありますか?」
 黙って歩くのも退屈なので、私はチーくん様と会話を楽しみながらいくことにしました。
「ギィ」
 肉じゃがなどいかがか、と言わんばかりの鳴き声をチーくん様は上げます。
「なるほど、肉じゃがですか。良いですね、家庭料理の定番です。チーくん様もお召し上がりになりますか?」
「ギィー」
 ではご相伴に預からせていただく、とチーくん様。
「ええ、是非味見していってください。濃い目の味付けがご主人様の好みなのですが、チーくん様はいかがですか?」
「ギィ」
 健康には気を使っていますので、薄めのほうが嬉しいですぞ、とチーくん様。
「そうなんですね。他にも何か、健康のためにしてらっしゃるのですか?」
「ギィ……」
 朝起きて乾布摩擦。意外と効果的である、とチーくん様。
「そうなんですね。乾布摩擦は……私は最後にしたのがいつになるのか、ちょっと思い出せませんね。あぁ、そういえばこのシリーズ。このタイトルなのに6頁現在でも未だに私を『スイレンちゃん』って呼んでくれる方が一人も出てないんですよ、どう思われます?」
「ギィ……」
 メタ発言はほどほどにしといたほうがええで……とチーくん様。
「それもそうですね……では……」
 などと他愛の無い話をしながら。


「台所に着きましたよ。では私は調理を始めますから、少し大人しくしていてくださいね?」
 抱かかえていたチーくん様を降ろしながらそう伝えると。
「ギィ、ギィ!」
 余も手伝ってやろう、人間よ……そんな感じの鳴き声。
「そうですか? ではお野菜とかを切るの、お願いしましょうか」
「ギィ」
 任せておくれやす、チーくん様がそんな感じの鳴き声をあげたので、ためしにニンジンを置いてみました。
「ギギィ!」
 気合の入った鳴き声と共に、ニンジンが均等な大きさで角切りになっていました。
「おや」
 思わず、私は感嘆の声を上げます。
 均等な大きさで切っておけば火の通りも均等になるため、野菜の切り方はそれが基本。
 そこまで出来るとはこのチーくん様、なかなか頼りになりそうです。
「では、次はジャガイモをお願いしますね」
「ギィ――」
 我がカマに断てぬモノなし――そんな自信に満ち溢れた鳴き声を上げながら、調理を手伝ってくれるチーくん様でした。

 そんな感じで、一人と一匹で仲良く調理をしていると。
「ごめん、スイレンさん! チーくん見ませんでした?!」
 レシュノルティア様が慌てた様子で、台所に顔を出すなりそう訊ねてきました。
 いなくなったチーくん様を探して走り回っていたのでしょう、肩で息をしていて、胸が大きく揺れています。
 なかなかのボリュームです。
「ええ、今ちょうどお手伝いをしてもらっているところですよ」
 私は目線でチーくん様の無事を知らせます。
「ギィ?」
「ああ、チーくん! 良かった、心配したんだよ!」
 迷子になっていた子どもを見つけたかのように、レシュノルティア様はチーくん様を抱きしめます。
「ギ、ギィ……」
「……そんなに苦しそうな……ううん、悲しいのかな? うん、そうだよね! こめんね、チーくん!」
 レシュノルティア様はちょっと涙声になりながら、より強くチーくん様を抱きしめてそう仰います。
 チーくん様が今苦しそうな声を上げているのは、弾力のある双丘をふにゅふにゅと押し付けられて息苦しいからでは? と思わなくもないのですが。
 あるいはレシュノルティア様、けっこうチーくん様の鳴き声を好き勝手に解釈してますね……などとも思ったりしつつ。
 私はメイドとして客人を立てるよう、一歩下がってから。静かに調理の続きへと戻るのでした。

 
 そしてこれは、ご主人様から聞いた後日談なのですが。
 レシュノルティア様との感動(?)の再開のあと。
 別のところを探し回っていたハナモモ様にも、チーくん様は同じように抱きしめられたらしいのですが。
 その時は、機嫌の良い鳴き声を上げていたそうです。
 多分、息苦しくなかったからだと思います。


 
――Fin.

  • 最終更新:2018-01-29 23:47:02

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